ラック(Lac)は、南アジアから東南アジアの一部地域で養殖されているラックカイガラムシの分泌物から得られる天然染料で、古い時代から赤色染料として用いられてきました。その分泌物からは染料となる色素とともに、天然樹脂も精製されますが、それらは塗料や接着剤として人々の暮らしに幅広く用いられ、日本にもすでに奈良時代には伝来し、かの正倉院に「紫鉱」として伝わっています。江戸時代にはその色素を綿に染み込ませて乾燥させた「臙脂綿」が輸入され、友禅染などの色挿しや絵画の着彩に用いられました。その有用性は現代においても目を見張るものがあり、薬剤や食品のコーティング、食品や化粧品の着色、絶縁材など、分野によっては代替材料がないというほどです。
本企画展では、ラックで染められた染織品を中心に、ラックカイガラムシの生態や養殖の様子、ラック樹脂を使用した工芸品などを展示、染料としてだけではない、多様な可能性に富んだ天然素材であるラックの魅力を紹介します。