古来より、人々は衣服を染めるために様々な染料を使用してきました。19世紀の中頃に合成染料が誕生するまでは、動植物から抽出した天然の染料によって色を手に入れていました。天然染料をつかった日本の色彩文化において欠かせないものが、植物のアイとベニバナから生まれる藍色と紅色です。手間のかかる工程による伝統的な藍染と紅花染は、それぞれ独自の文化を築いてきました。
藍は古くから日本で親しまれ、様々な染色技法と結びついてきました。木綿とともに広まった江戸から現代にいたる藍染の着物や浴衣を、素材や染色技法などに着目して紹介します。
一方、古くから貴族のあこがれの色であった紅は、草木染の中でも花の部分を使用する珍しい染物です。江戸時代の公家や武家女性が着用した美しい打掛や、紅板染めによって染色された下着、そして山形において紅花染の再興を担った人々による作品を紹介します。
本展では、ふたつの色と染料技術の歴史、そこから生まれた衣装や衣服を紹介し、その魅力を見つめなおします。
【展示作品】約100点(展示替あり)
藍のものがたり
明治の頃「ジャパンブルー」と称された藍色。藍は古くから日本で親しまれ、様々な染色技法と結びついてきました。江戸から現代に至る藍染の着物や浴衣を、素材や染色技法などに着目して紹介します。
第 1 章「藍染めによる染色のはじまり」古くから使われた麻や絹、江戸時代以降に生産拡大した木綿に染められた、采女装束や法被、浴衣や胴服など、藍染着物のバリエーションをご紹介します。
第 2 章「浴衣」江戸時代に広まった銭湯によって、木綿の浴衣が着用される機会が増え、銭湯への往復のみならず、夕涼みや花火見物といった行楽にも着用されるようになりました。本章では涼しさを呼ぶ着物-浴衣-をお楽しみいただきます。
第3章「長板中形」とは、木綿の浴衣地を染めるのに用いられた模様型のこと。表裏両面を防染することで藍と白が際立つ仕上がりとなります。人間国宝の型染め作品とともに、両面が柄違いの幻の染物「籠染ゆかた」などを展示します。
第 4 章「現代の藍染」では、藍染めに魅了された作家や工房の作品を紹介します。久留米絣などによる藍、養蚕から染め織まで一貫して作られた作品、長板中形を守る人々、天然染料と向き合う人々、同じ藍は一つもない様々な藍の形をご紹介します。
紅のものがたり
中国から日本に3世紀には伝来したとされる紅花。美しく高貴な染料であり、貴重な化粧品としても活用され、古くから大切にされてきました。江戸時代には最上川流域が紅花の一大産地となり、生花から上質の紅花染料「紅餅」を作って京都へと運ばれました。
第1章「紅花と染織」では、江戸時代の女性が着用した格式の高い着物である打掛などを取り上げます。打掛は紅花で染めた綸子や縮緬などの絹地に、金銀の刺繍で模様を施した豪奢な作品です。あでやかな紅の着物をお楽しみください。
第2章「紅板締め」では、襦袢や下着といった女性が内に着る服飾に多用され、今では幻の染色技法ともいわれる「紅板締め」の下着や裂地を紹介します。
第3章では「紅花染の広がり」として、子供用の着物や浮世絵の中に表現された紅花染を紹介します。
第4章「現代の紅花染」明治以降、化学染料の普及などにより、紅花栽培は衰退の一途をたどりました、しかし、昭和に入り再興の機運が高まり、平成 30 年には山形の紅花栽培と紅花交易が日本遺産「山寺が支えた紅花文化」として認定されました。最上紅花をつかった美しい作品を紹介するとともに、紅花染めの工程を示す絵画や資料もご紹介します。
