2024年に101歳の生涯を閉じた染色家、柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)。
型染の世界に新風を吹き込んだ柚木の作品は、自由でユーモラスな形態と美しい色彩が心地よく調和しつつ生命力にあふれ、見る人を惹きつけてやみません。
柳宗悦らによる民藝運動に出会い、芹沢銈介(せりざわけいすけ)のもとで染色家としての道を歩みはじめた柚木は、挿絵やコラージュなどジャンルの垣根を超え、創作世界を豊かに広げました。
本展では75年にわたる活動を振り返るとともにゆかりのあった都市や地域をテーマに加え、柚木をめぐる旅へと誘います。身の回りの「もの」に対する愛着や、日々のくらしに見出した喜びから作品を紡ぎだす柚木の仕事は、変化の時代にこそ、大切に慈しみたい「いま」を私たちに示してくれます。民藝を出発点に、人生を愛し楽しんだ柚木沙弥郎の創作活動の全貌をご堪能ください。
柚木沙弥郎(1922-2024年)
1922年、洋画家・柚木久太の次男として東京に生まれた柚木沙弥郎は、東京帝国大学美学・美術史学科在学中に学徒出陣し、戦後は父の生家のある倉敷へ復員しました。
就職した大原美術館で、柳宗悦らの民藝の思想と芹沢銈介の型染カレンダーに出会い、染色を志します。芹沢のもとで染色の基礎を学んだ後、日本民藝館展や国画会、個展などを通じて、自由でのびやかな形と豊かな色彩の染色作品を数多く世に送り出しました。1950年からは、女子美術大学工芸科で長らく教育にも携わり、1987年から1991年までは学長を務めるなど後進の育成にも尽力しました。1980年代以降は染色を主軸にしながらも、版画やコラージュ、絵本、立体作品、ガラス絵など、その創作はジャンルを超えて広がりを見せ、2000年代に入ると、インテリアショップ、イデー(IDEE)での展覧会や、カフェやホテル内のアートワーク、企業との協働による製品づくりなど、現代のくらしと結びついた活動でも知られるようになる一方、実用を離れた自由な表現としての染色作品を制作し続けました。
