今に伝わる染織遺品は、その時々の最高の素材や技術を駆使して生み出され、権威や富を象徴するものでもあります。本来の役目を終えた小さな断片=裂〈きれ〉は「古裂」と呼ばれ、茶の湯の世界をはじめ、美術工芸品を守り引き立てるだけでなく、裂そのものが芸術品として永く大切に愛で伝えられてきました。
京呉服の「ぎをん齋藤」は天保14年(1843)京都に創業、本年で178年を迎える老舗です。7代目当主の齋藤貞一郎氏は、染織コレクターとしても知られ、蒐集品に学んで精力的に古典の技法や意匠の復刻に取り組まれています。
本展は、ぎをん齋藤様の全面的なご協力により、そのコレクションから、中国唐代に遡る貴重な遺品や、民間に流出した最大級の正倉院裂として近年話題を呼んだ「唐花文錦」をはじめ、中世の綾・錦、近世の辻が花や慶長裂など、東洋染織史を概観できる染織芸術品の数々を紹介します。