婚礼布団は「祝い布団」とも呼ばれる庶民の婚礼道具の一つで、花嫁が新しくあつらえて嫁ぎ先へ持参する習わしがあります。これは江戸時代末期から昭和30年頃にかけて盛んに行われ、筒描藍染めによる家紋や縁起の良い吉祥文様の装飾がほどこされました。
染織分野における筒描は、もち米から作った糊を口金付きの渋紙の筒袋に入れ、布に線状に絞り出して他色と染め分ける境目を作る糊防染技法を指します。着色部、及び白地に染め抜く部分を糊で覆うことで、染料にいくど浸け染めしても色が混ざらない繊細な配色を可能にし、庶民の染織文化に有意な図案構成と色彩をもたらしました。それゆえ、庶民のハレの場に際する率直な華やいだ心情が、闊達な筆致や鮮やかな色づかいに投影され、表れているものと捉えることができます。
この展覧会では、本館所蔵資料より筒描藍染め技法を用いた婚礼布団を展示いたします。同じ吉祥文様の意匠でも、ほのぼのとしたものから形式を重んじるものまで、のびやかで自由な造形をご覧いただけます。それぞれに由来がある吉祥文様からは、いつの世も変わらない嫁ぐ娘の幸先を祈る家族の姿が窺われましょう。
庶民生活の中でも最も晴れやかな婚礼に際して育まれた行動意識や美的感性に触れ、お楽しみいただけますことを願ってやみません。