「装飾する魂」を探しに
青森県立美術館開館20周年 「装飾する魂 ユーロ=アジア世界をつなぐ文様の宇宙―縄文、ケルトから、ねぶたまで」 展
青森県立美術館
青森への旅を決めたのは、展覧会の関連企画である立教大学学術協力企画 公開シンポジウム「装飾する魂―『ホモ・オルナートゥス(飾る人)』の発見」に参加したことがきっかけです。西のケルトから東の縄文、網走市にある北海道立北方民族博物館のもつ北方民族の資料、青森のこぎん刺し、北海道のアイヌの民族衣装、蝦夷錦にねぶた、興味深いキーワードが並ぶ魅力的な展覧会。監修者である鶴岡真弓氏の「ぐるぐるすることこそが生の醍醐味」というメッセージにこれは無理をしてでも行かなければという気持ちになっていました。

青森県立美術館でみる最初の布
青森県立美術館は青森県の豊かな芸術風土や隣接する世界文化遺産三内丸山遺跡に象徴される縄文のエネルギーを芸術創造の源泉ととらえ、多様性に富んだ芸術の魅力を発信している美術館です。青木淳氏の設計による建物は植物の緑と青空の中、白さが際立っていました。すぐ近くに三内丸山遺跡があります。
展示室に入って一番最初に目にするのは美術館の中心にあるアレコホールと呼ばれる大きなホール。20世紀を代表する画家、マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の背景画が4幕展示されていて、圧倒され、展覧会への期待が高まります。染織作品ではありませんが、これも素材は「布」です。それにしてもこんなに大きな布をどうやって作ったんでしょうか?布好きとしては気になります。
(アレコの背景画は展覧会の終了後にも展示されています。)

第1章『ケルト装飾写本: 驚異のミクロコスモス —キリスト教と異教を越えた「文様と文字」』
青森に来るきっかけとなった立教大学のケルト装飾写本「ケルズの書」を目にして、とうとう渦巻く世界に来てしまった!と胸が高鳴りました。
(ケルズの書【ファクシミリ版】 立教大学図書館)
第2章『棟方志功とケルト文様の邂逅 —北方の稠密(ちゅうみつ)』。
青森を代表する版画家、棟方志功がケルト文様をモチーフにしていたことに驚きます。
菩薩様のまとっている布の模様が急に気になりはじめました。この模様のもとになったのはどんな布でしょうか。
(棟方志功|左<<普賢菩薩の柵>>*改刻前、右<<文殊菩薩の柵>>*改刻前|棟方志功記念館)


第3章 『装飾の生命力と呪術 —北東アジアと中央ユーラシアの美術工芸』
中央にはゲルが設置され、「ナナイ」「ウリチ」(ロシア沿海州、アムール川流域)や、「ウィルタ」(サハリン州)、「アイヌ」(北海道、サハリン州、千島列島、東北北部)、および「ニヴフ」(アムール川河口とサハリン州)など、北方民族の装飾と珍しい資料が展示されています。
北方民族のものといわれると少し意外にも感じる華やかな色彩の刺繍で彩られた花嫁衣装はまるでつかの間の春の喜びを写し取ったような華やかさ。『「天文」は神々の作る造形、「人文」はそれを人間が写し取った造形』という立教大学の講演会での鶴岡氏のお話を思い出しました。


北方民族の民族衣装とウズベキスタンの民族衣装、青森のこぎん刺し、アイヌの衣服、貴重な資料が同じ空間で展示されています。こんな展覧会は初めてです。白い壁と土色の壁が衣装を引き立てていて、建物についての解説もあり全身で展覧会を味わいました。
体を覆うというだけならば無地でも問題はないはずの布。今よりも寒くて不便な時代、こぎん刺しは布を織って刺すまでの工程のほうが長く、刺し子自体は作業というより楽しみの時間であったとうかがったことがあります。防寒という機能だけではなく、数々の意味のある「モドコ」はやはり「装飾する魂」の現れなのではないかと思います。日本人の感覚で見ると派手に感じるウズベキスタンの絣”アドラス”は砂漠でも姿を見つけやすいように。雪の中で森の中で砂漠の中で、それぞれの場所で装飾に理由があるなぁとあらためて思います。

第四章『精霊たちの参道 —小像にうごめくアニマの力』
豊富なバリエーションの資料が次々に「装飾する魂」を刺激してきます。民族衣装を着たお人形をはじめ、土偶、こけし、マトリョーシカ、おしら様など、小さな像の表面に施された「装飾/意匠」とともに、霊力の器/身体となってパワーを発揮するとされてきたものたち。
(人形3点|民族:ナナイ|地域:ロシア・ハバロフスク地方 北海道立北方民族博物館)
小さいサイズに写し取られた人や動物は現実と同じ比率では意外とそれらしくなりません。小さいながらもそれらしく見える模様のサイズだなぁと思いました。現代でも「推し活」や「ぬい活」として、マスコットを持ち歩く人がいます。もしかしたらこれらも持ち運べる「装飾のパワー」なのかもしれないですね。
第5章『渦巻の神秘:日本の「縄文」とアイルランドの「巨石」—ユーロ=アジア世界の東西にみる先史文様』。
お人形の展示に続いて、土偶・縄文土器・アイルランド巨石が並びこの部屋だけで企画展が成立しそうです。
(左:土面、右:遮光器土偶|二枚橋遺跡(縄文時代晩期)|むつ市教育委員会|重要文化財)

死と再生は一方通行ではなく循環していることを表す「渦巻文様」。この展示を三内丸山遺跡につながるこの場所で見ることについて考えます。
遠くアイルランドで巨石に渦巻を描いた人、東の果ての国のこの土地で土偶を作った人は何を思ってこの文様を描いたのでしょう。土の中で長く眠っていた土偶たちはこの時代の光の中で何を思うのでしょう。
膨大な時間の流れの一瞬でしかない今生がどこにつながっていくのかわからないですが、わたしもまたこの地に戻ってくるのでしょうか。

第6章『生命論としての「装飾/文様」 ―今和次郎の原点「卒業制作」作品群』
青森県生まれの建築学者「今和次郎」氏の「装飾/文様」の図案シリーズ。
関東大震災の後、「バラック装飾社」を興した今和氏の活動は「装飾する魂」そのものです。
この夏は本当に各地で災害がありました。大切な人やものを失ったとき、日常を取り戻すのに必要なものは何だろうとあらためて考えました。こちらもまた違う角度から「死と再生」のテーマにつながります。
第7章『「蝦夷錦」と「北のシルクロード」 —北方民族の交易と装飾』
こちらも青森県立美術館ならではの展示です。蝦夷錦は日本全国で100点程度しか確認されていない非常に希少な資料ですが、そのうち40点近くが青森県内に現存しています。中国から北東アジアのシルクロードを経て北方民族、アイヌ民族、を通じて青森に伝わった蝦夷錦は正面を向いた龍を中心に、祥雲(めでたい雲)や波間の蓬莱山などの緻密で鮮やかな刺繍が施されています。
(蝦夷錦(蟒袍 [もうほう])|市立函館博物館)


第8章『「ねぶた」:祈りの大灯篭 ―ユーロ=アジア世界をつなぐ「龍/雲」と「三つ巴文様」』
展覧会のしめくくりはなんと青森といえば!のねぶたです。展覧会のために制作された第七代ねぶた名人・竹浪比呂央氏の新作「NEBUTA 将門」。中国から伝わった蝦夷錦の龍や雲の図像や装飾文様が純日本的な青森の「ねぶた」の図像や装飾文様にもつながるなんて、考えもしませんでしたが言われてみれば着物など伝統的で日本的なものとされるものにも外国の影響がないわけはないのです。
(「NEBUTA 将門」監修:竹浪比呂央|ねぶた制作:竹浪比呂央ねぶた研究所|龍画制作:井上舞 )
美術館を出た後も、自分のどこかで火がついた装飾する魂を探す旅が続きました。ぐるぐるぐるぐる…地球もDNAもなにもかもがぐるぐる回っています。海と空の青と森の木々の緑、りんごの赤、まだ体験したことのない冬の白。これらは天が作ったものです。この土地で暮らせば自然と自身の感覚を磨くことになるのではないでしょうか。ソウルフードといわれる「イギリストースト」のマーガリンとグラニュー糖、宿の人に教えてもらわなければ食べなかった「味噌カレー牛乳ラーメン」。この土地ならではの「これっていいでしょう?」という感覚にたくさん出会いました。伝統的なものや芸術にかかわるものだけでなく、目の前のなにもかもが誰かの「装飾する魂」がいろどったもの。出会うものすべてがそれを現しているように思いました。
会期は2026年9月27日まで。行くときはぜひ三内丸山遺跡と縄文ポシェットも合わせて見に行ってくださいね。同じ日まであおもり北のまほろば歴史館で企画展「青森の刺しこ着ー菱刺しとこぎん刺しー」もやっています。
(こちらの情報は2026年9月14日時点のものです。詳細は公式サイトをご確認ください)
(JAPAN TEXTILE NEWS kappo)
(Special Thanks ever green imaki)