補強や保温のため、重ねた布に糸で幾何学模様を刺し縫いした衣類を刺し子といいます。現在では「津軽こぎん刺し」や「南部菱刺し」が工芸品として有名ですが、福島県内でも奥会津の只見町や旧南郷村、伊南村などの伊南川流域には、かつて刺し子の仕事着が伝えられていました。なかでも旧南郷村一帯では、堰普請や上棟式などに新しい木綿の刺し子の半纏を晴れ着として着る習慣がありました。
各家の女性たちによって作り上げられた精緻な刺し子の文様は、夫の身の安全を祈るものであり、また自身の技術を披露する場でもあったといいます。のちにそれは「南郷刺し子」と呼ばれ、貴重な地域の文化として見出されるようになりました。その製作技術は地域の女性たちに受け継がれていましたが、明治初期頃に途絶えたといわれています。
平成22 年11 月、失われつつあった刺し子づくりの文化の継承を目指して、南郷地域の有志により「南郷刺し子会」が結成されました。その後、会津や中通りから関東地方に至るまで、様々な地域の会員により多くの刺し子半纏が製作されてきました。また刺し子の文様を取り入れたアクセサリーや小物などにもその技術を応用し、現代の暮らしにも使いやすい作品を作り続けています。今回の展示では、南郷刺し子会の皆さんの手により現代によみがえった刺し子の作品を一挙にご紹介します。