1960年代、欧米において従来のテキスタイルの概念を超えた作品群が誕生してきました。伝統的な技法を踏まえつつも、天然・合成繊維のみならず金属や鉱物などさまざまな素材を取り込んで、平面から立体そして空間へと展開した作品群は、ファイバーアート(繊維造形)と呼ばれ、その潮流は世界へと波及しました。小林正和(1944−2004)は、1970年代後半から2000年代にかけて、ファイバーアートの第一人者として国内外で活躍、1995年からは岡山県立大学で後進の指導にあたりました。本展は、小林の生誕80年・没後20年を記念する回顧展で、小林の代表作や関連資料を紹介するとともに、同時代で活躍した作家たちの作品を加え、国際的にも高く評価された日本のファイバーアートの展開を概観します。
小林正和
小林正和(1944~2004)は京都市に生まれ、京都市立美術大学で漆工を学んだものの、就職した川島織物での「1本の糸との出会い」を起点に、糸を「垂らし」「張り」「緩め」集積させた立体造形作品を制作。国際タペストリー・ビエンナーレ(スイス・ローザンヌ)や国際テキスタイル・トリエンナーレ(ポーランド・ウッヂ)等で入選入賞を果たし、国際的にも高く評価され、日本におけるこの領域のパイオニアとして活躍した。糸を含む「ファイバーは人間と密接に結びついている」と考える小林の作品は、常に空間と関係を切り結ぶことを志向し、最終的には戸外でのインスタレーションへと展開した。小林は1993年岡山県立大学の開学に伴い、教授となり、1995年に着任。2004年の早すぎる死去までの約10年間、自らの制作に打ち込むとともに後進の指導にあたり、岡山に新しいテキスタイルの造形表現を根付かせた。