「美術の中のかたち—手で見る造形 遠藤薫 眼と球」 の見どころ [常設展示室4] 「美術の中のかたち—手で見る造形」は、作品に触って鑑賞できる展覧会として、視覚に障がいのある方にも作品を楽しんでいただくことと、視覚に偏ってきた美術のあり方を考え直すことを目的に1989年より一年に一度開催してきた恒例のシリーズ展です。 33回目となる今回は、主に染織によって制作を行う遠藤薫(1989-)の作品を展示します。日常にあふれる日用品や工芸品。その裏側には、普段通り生きていてはほとんど不可視である、歴史や社会の仕組みがあります。遠藤の作品は、そうした日常の一側面を、自身で制作した工芸品や土地の歴史や人々についてのリサーチを基に浮かび上がらせるものです。今回遠藤は何かが「生まれていく」ことに焦点を当て、触覚・嗅覚・聴覚で体感できる作品を制作します。
生まれ変わった落下傘
古くなった衣服を布巾や雑巾に仕立て直すように、布は、何かに使われ擦り切れた後にも、その布の痕跡を残したまま新しい何かとして使われることができます。作家は、こうした布の特性を独自に織り込みながら制作を続けてきました。今回の展示では、作家が過去にジュート麻を用い仕立てた落下傘を、再び、美術には欠かせないある存在に変貌させます。生まれ変わった落下傘の姿を、触って嗅いでお楽しみください。
目の前に広がる、眼の前の世界
触ることによって視覚中心の美術のあり方を問いかけなおす本シリーズと呼応して、今回作家は、生命に視覚が「生まれていく」過程までをも探求しました。原初的な生物や人間の赤子でさえも、その最初期には視覚を持っていません。触覚や聴覚などの他の感覚の方が、視覚よりも先に培われるのです。それにも関わらず、なぜ今私たちが生きる世界は、視覚が絶対的かのように思えてしまうのでしょうか?作品を鑑賞することで、このような疑問について考える機会とします。
遠藤薫
1989 年大阪府生まれ。2013 年沖縄県立芸術大学工芸専攻染織科卒業。2016 年志村ふくみ主宰アルスシムラ卒業。土地に根ざした工芸や生活においてほとんど意識されがたい社会的、歴史的事象を、主に染織技法を用い制作された工芸品や市井の人々へのインタビュー、文献のリサーチなどを基に探求する。作品は、雑巾や落下傘、船の帆といった種々の布や、琉球ガラスや船それ自体にまで至る。それらを作家自身が「使う」ことによって、工芸がもつ両義性や複雑さを明るみにだす。歴史の根本を解きほぐすようなそうした作品群は、沖縄とアメリカ軍や、羊毛産業と軍需産業といった事象にまでも拡張される。