日本橋に店舗を構える「榛原-はいばら-」は、1806(文化3)年に創業し熱海製雁皮紙をはじめとする高級和紙や、小間紙と呼ばれる装飾用の加工紙(千代紙、書簡箋、熨斗ほか)などを販売してきました。18世紀の終わり頃から製造が開始された熱海製の雁皮紙は、墨の付きが良く緻密で上品な光沢があり、従来の楮製の紙に代わる高級紙として江戸の数寄者たちに広く愛用されるようになります。雁皮紙を加工した和紙製品には、美しい彩色や同時代の画家による装飾が施され、榛原は上質かつ洗練された高級和紙舗としての評判を得ます。
明治時代になると、高度な木版摺りの技術とデザイン性を兼ね備えた榛原の商品は、日本を代表する工芸品として海外から高く評価され、国内外の博覧会で受賞を重ねました。
今回の展覧会では、おもに明治から昭和初期にかけて榛原で製作された貴重な品々をご紹介します。河鍋暁斎(1831-1889)や川端玉章(1842-1913)が手がけた華麗な千代紙や、同時代の画家たちによる団扇や団扇絵、美しい絵柄の絵封筒や絵半切(便箋)は、当時の人々に身近で上質な〈美〉との触れあいをもたらしました。
また、榛原の当主たちは商品の研究も兼ねて、同時代の芸術家たちと交流を結んできました。特に明治期前半に活躍した三代目当主榛原直次郎は美術への関心が高く、伝統的な日本美術の復興を目的として結成された龍池会に入会し、日本青年絵画協会(のちの日本美術院)の設立を支援するなど、美術界と深いつながりをもっていました。こうした榛原と美術家たちとの関わりについても注目し、柴田是真(1807-1891)や河鍋暁斎、竹久夢二(1884-1934)が手がけた仕事の数々をご紹介します。
日本の紙文化と伝統木版画の流れを受け継ぐ小間紙の魅力と、豊かなデザインの数々をお楽しみください。