和装が主流だった時代、貴重品や懐紙、たばこなどを携帯する際には袋物が用いられ、江戸から昭和の初めごろまで紙入れやたばこ入れがその代表的な存在でした。これらは懐に収めたり腰から提げたりして用い、装身具としても重要なものでした。たばこ入れは構成部品が多く、各部品にさまざまな素材が用いられることから、凝った装飾のものが多く作られました。さらに明治9年(1876)に廃刀令が出されると、刀装具を製作していた腕のよい職人たちが袋物を含む日用品も手がけるようになり、たばこ入れは技術の粋を集めた美術工芸品として黄金期を迎えます。
明治維新後は、西洋を手本とした近代化のなかで、和装での暮らしに寄り添ってきた袋物にも機能や形の変化が求められ、西洋由来のハンドバッグなどに近づく流れも生まれました。この時流を感じ取った日本橋の袋物商・井戸文人(いどぶんじん/1874~1923)は、大正8年(1919)に袋物に関する初の通史『日本囊物史』を著しました。
本展は『日本囊物(ふくろもの)史』に沿って、袋物、職人や袋物商たちの歴史について4つの章で概観します。たばこ入れを中心としたさまざまなジャンルの袋物、金具などの部品、絵画資料や書籍など約300点の作品を通して、袋物の持つ用と美、時勢に呼応した変化、そして変わりゆく時代の需要に応え続けた職人や袋物商たちの仕事を紹介します。
※本展では、会期の前期と後期で一部作品を入れ替えます。