美術作家 平川渚は,主にかぎ針で糸を編むことにより作品を空間へと拡げ,場所や人々の記憶,時間へとアプローチする手法に取り組んできました。また最近では,個別の記憶を宿した素材として,人々から集めた古着やあみものを扱った作品なども制作しています。
当館では2022年度に平川の個展を開催する予定です。これに先立ち,新作の材料となる手編みのものを本館の地元である湧水町の人々から集め,それらをほどいて毛糸に戻し,さらにひとつの大きな作品へと編み直すためのプロジェクトを,この春より展開しています。平川のもとには,既に町内の20人の方から「手編みのあみもの」と,同数のあみものにまつわる物語が集まりました。
今回はこのあみものと物語にフォーカスした展示「いとなみ」を開催します。そして,会期後は持ち主の了承を得たあみものを糸にほどき,来年度に展示する作品の一部に編み込んでいきます。
誰かのために編まれたものの,糸の間に紛れ込んだ編み手の想いや,目には見えない何か。そのあみものを受け取った,誰かの日常。かたちを変えても,続くいとなみ。それらに思いを馳せる展示となるでしょう。
* プロジェクト公式インスタグラム:「teamiproject」で検索してください。
作家紹介 平川 渚(ひらかわ なぎさ)
美術作家。1979年大分県生まれ,2013年より鹿児島県在住。
各地に滞在し,場所から読み取った素材をもとに,主に糸をかぎ針で編んで固有の空間にかたちを立ち上げるインスタレーション作品を制作。また,人々から集めた古着やあみものを素材に個別の記憶や出来事へアプローチし,作品として再編する試みも並行して行っている。主な展示に2017年「Local Prospects 3 原初の感覚」(三菱地所アルティアム/福岡),「メッセージ2017 南九州の現代作家たち」(都城市立美術館/宮崎),2016年「糸島国際芸術祭2016 糸島芸農」(福岡)など。都城市立美術館に作品収蔵。