南太平洋美術を求め、1969年以来十数度くりかえした旅の記録と最新研究。現地で遭遇した華麗で凄烈な部族の異装や、儀礼的贈与の主役となるタパ(樹皮布)、編み布、繊維造形、貝貨、羽毛貨、巨大なブタの牙など、稀代の造形は美的で、気高く、洗練され、妙味にあふれる。1000点以上の豊富な図版と、数百点の作品のヴァリエーションとともに、南太平洋美術の魅力の秘密、造形的完成度を高めたモチベーションやパッションの実感に迫る。
目次
プロローグ―野生のオブジェによせて/圧倒的な装身文化
南太平洋のタパや装い
織物以前のこと/編み布/タパ(樹皮布)/紐衣と編み袋/繊維造形/貝の装身具と貨幣/羽毛の装身具と貨幣
フィールドノートから
織り布/幻の染色/ブタの牙/ヤムイモの贈与/裸体の装身具/ソロモン諸島のかご細工/貝の装身具と貨幣/
羽毛の装身具と貨幣/南太平洋のタパ(樹皮布)/パプアニューギニアのタパ村再訪/ニューギニアのタパと、シュルレアリスム
エピローグ―南太平洋の威信
コレクションカタログ
著者紹介
福本繁樹
1946年滋賀県湖北に生まれ、京都市中京区の職人の街で育つ。京都市立芸術大学専攻科西洋画専攻修了。学生時代から染色業自営。1976年より美術家として染色作品などを国内外で発表。2018年3月まで大阪芸術大学教授。現在立命館大学環太平洋文明研究センター客員協力研究員。
主著に『 メラネシアの美術』『 南太平洋・民族の装い』『 精霊と土と炎─南太平洋の土器─』『 「染め」の文化 染み染み染みる日本の心』『 布・染み染み 福本繁樹作品集』『 染色論のすゝめ』『 福本繁樹作品集 愚のごとく、然りげなく、生るほどに』(2019年度意匠学会賞) など。
2001年度第14回京都美術文化賞、2021年度(第36回)大同生命地域研究特別賞。URL:http://shimijimi.net/
著者よりメッセージ
「機械」と書いて「はたのしかけ」と読むことができますが、織物出現の前と後では、テキスタイル文化だけでなく、社会形態や人間文化の本質的な違いが認められます。南太平洋に育まれた織物以前の文化はけっして「未発達」なものではなく、むしろ、今日の戦争や環境破壊、独裁や汚職、詐欺やハラスメントなど、さまざまな欺瞞にみちた文化と比較して、崇高な芸術と威信にみちています。それらは数十年前までは離島や密林の奥にまだ少しは伝えられていました。染織や民族学に対する興味だけではなく、多くの方々に記憶にとどめていただきたいと、南太平洋美術の魅力を満載しました。