中野坂上にある武田修能館では、能楽の興隆のために誠心誠意尽くした昭和時代の能楽師の一人故 武田太加志氏により、能楽師の手元から離れていた貴重な能面、能装束を生涯かけて収集、現在、能面 114点、能装束 338点、能楽小物道具等 315点を所有しています。能装束や能面は、舞台で使用した後は陰干しを行い、ほつれた箇所などは能楽師自ら手作業で修繕しながら、代々、大切に受け継がれてきたそうです。

通常は演技に使われている数点しか見ることが出来ませんが、年に一度、すべての所蔵品を一斉に干す「虫干し」を一般に公開しています。能楽師の解説や様々な体験談とともに、装束を目近に見られるという貴重な機会です。

案内してくださったのは能楽師の武田文志氏。白足袋に履き替えて、いざなわれた虫干し会場は、密な衣装の波!

圧倒されるような衣装を間近にくぐりながら、それぞれについて来歴や使用する場面の説明などがあり、研究者の山口憲氏が古い装束を再現するために桑畑を作るところからはじめたお話、その再現した装束と古い装束を交換した話。今では絶対に再現することのできないという草木染、意匠の話、戦後に倹約して装束を買い集めた話、扇やかづらなど小物についてもたくさんお話を聞かせいいただきました。博物館のテキスタイルも素敵ですが、「現役の本物」を大切に残すという意思を感じ、良い学びの機会になりました。

お能というと知識がないとなかなか敷居が高いイメージですが、少し興味を持ってみたら着物の柄などに描かれたモチーフも一味違って見えてきます。今年の虫干しは終了ですが来年をお楽しみに。

※今年の虫干しは終了ですが、9月に能面と能装束についての講座があるそうです。こちらは能面が中心だそうですが、興味のある方はぜひどうぞ。

公益財団法人 武田太加志記念能楽振興財団


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