太平洋戦争へと傾斜していく1930年代は、一方で昭和モダンとよばれた都市文化が爛熟しました。写真を多用した新たな視覚文化や、インターナショナル・スタイル建築、シュルレアリスムなどの前衛絵画が台頭し、革新と伝統、都会と地方といった両極を揺れ動いた変化の時代だったのです。
この頃、先端的な意識を持った人々が相前後して東北地方を訪れ、その土地の建築や人々の生活用品に注目し、これらを記録、蒐集、展示などを行いました。1933年に来日した建築家ブルーノ・タウト、1926年以降本格的に民藝運動を展開した柳宗悦、1940年に来日したシャルロット・ペリアンなどは、そうした人々の一例です。
また、こけしや郷土玩具への関心も飛躍的に高まり、それらを収集、紹介した武井武雄、山内神斧らの活動も注目されます。さらに「考現学」の祖・今和次郎や『青森県画譜』を描いた弟の今純三、東北生活美術研究会を主導した吉井忠などの東北出身者たちも、故郷の人と暮らしの貴重な記録を残しています。
この展覧会は、東北に向けられた彼らの複層的な「眼」を通して、後進的な周縁と思われた東北地方の豊かな文化のありようを、400点をこえる作品資料により確かめてみたいと思います。