かつて山形県鶴岡市にあった「アマゾン民族館」と「アマゾン自然館」に展示・収蔵されていた民族及び生物資料は、2014年に閉館した後も後世へ残すための保護活動が続いています。生活工芸品約8,000点、生物標本・剥製12,000点と、個人収集のレベルをはるかに超えた文化人類学研究者 山口吉彦氏のコレクションは、南米 アマゾン川流域の先住民を中心に、そこに暮らす人々の生活に密着した道具からその土地に生息する生物標本に至るまで、幅広い資料が揃っています。氏が、1970年代から十数年に渡って、“物々交換”など現地の人々との直接のコミュニケーションから集められた品々は、ありのままの文化資源です。
自分たちが生活する周辺で材料を手に入れ、自ら道具を作り、その道具や知恵を使って生きる。そんなアマゾン川流域に住む先住民の人々にも文明社会や環境破壊など大きな変化が降りかかり、民族の伝統や言語の消滅は進行していますが、少数になった今もなお、自然と極めて近い共存生活を続けている人たちがいます。
遠い過去の話や別の世界のことではなく、今日もこの地球で営まれているくらし。そこでは自然との関係や使い手のことを配慮した生きるための道具が作られてきました。それらの道具を作り続けてきた人たちの様々な思いが山口氏のコレクションには込められています。
自然、家族、民族、後世、そしてひとりの人間同士として。どの関係においても他者への慈しみなしでは存在しえません。様々な禍が起きる現在、一層多くの気づきや学びがあるように思われます。
ATELIER MUJI GINZA
山口吉彦(文化人類学研究者)
1942年山形県鶴岡市生まれ。1967年頃からフィールドワークを始め、アジアやアフリカなど85ヵ国をまわる。1971年からアマゾン流域の調査を開始。帰国後、地元鶴岡市で国際理解と交流促進に尽力し、アマゾン民族館の館長を務めた。2005年には鶴岡市市政功労者表彰を受ける。一般社団法人アマゾン資料館顧問。
昆虫好きの少年が最初に憧れたのは、アマゾンの森の巨大なカブトムシや輝く青いモルフォ蝶のいる”昆虫王国”でした。その後、フランス留学中にレヴィ・ストロースのフィールドワークに魅了された氏は、アマゾンに住む先住民の生活や文化にも深い興味を持ち、夢をさらに膨らませ、40年以上にわたり、アマゾンの自然と文化、その調和に関する調査・研究・資料収集を行っています。