インドを中心とする南アジア世界において、布は時と場所、使途に応じて、あるいは宗教的規範や社会的慣習によって、用いられるかたちや色、文様が異なり、その扱われ方も場面ごとに明確に定められている。
これまでインドについては、一枚布を巧みに変形させて、多様にまとう着衣文化があることが注目されてきた。だがインドにおける布は、衣装としてだけではなく、人生儀礼における贈与や、神がみへの奉納、社会運動でのシンボルといった多様な役割を担っている。人びとは場面に応じて多種多様な布のなかから目的や機能に適したものを選び、使い分けているのである。そのような人びとと布の多様な関係性は、多宗教、カースト制度、数百を超える言語といったインド社会の特質と深く結びついている。
インド世界の布は、場をくぎり、人をつなぎ、神と人の媒介となり、政治をうごかし、グローバル経済をうみだす。このように躍動する布の現場に光を当て、布の役割や機能を明らかにすることは、グローバル化が進む現代インドの社会や文化の持続と変容の動態をひもとくことにつながる。本展示ではインド社会をつくりだしている人びとの営みを多彩な布とともに紹介する。
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